本作『幽霊の茂みの中での私の人生 = My Life In The Bush Of Ghosts』は、ブライアン・イーノとデヴィッド・バーンの共同名義で1981年に発表された、音楽史に残る実験的名作です。 この作品の最大の特徴は、ラジオの布教演説や政治談話、イスラムの祈祷、黒人霊歌など、さまざまな「声」の断片をサンプルとして大胆に導入し、それを単なる装飾ではなく構造そのものとして機能させたことです。これは単にサンプリングという技術の早期実践に留まらず、音楽を通じて文化、宗教、政治といった記号群の衝突を浮かび上がらせる試みでもあります。 アフロビートやアラブ音楽のリズム感覚、ノイズ的要素を孕んだエレクトロニクス、そして即興性の高いリズムセクションが交錯し、まるで儀礼の断片や未確認の放送電波が交差するかのような異質な音響空間を創出しています。 録音にはトーキング・ヘッズのクリス・フランツ、ビル・ラズウェル、ミンゴ・ルイスら多彩なゲストが参加し、その即興の衝動が構造の輪郭を曖昧にし、音の地形を絶えず変化させています。 発表当時のポップ/ロックの文法を逸脱するラディカルな構成により「早すぎた作品」とも評されましたが、のちのヒップホップ、アンビエント、クラブカルチャー、ポストロックにまで広範な影響を及ぼしたことにより、現在ではサウンド・アート的マイルストーンとして確固たる評価を得ています。 「音楽とは何か」「聴くとはどういう行為か」という根源的な問いに対し、宗教、メディア、声、儀礼、電子機材といった異質な層を交錯させながら、極めて鮮やかな批評性をもって応答するこの作品は、まさに“語る亡霊たち”による音の記録として今なお響き続けています。